先生・在学生からのメッセージ|愛媛大学農学部生命機能学科

岸田 太郎先生

「食べる」とは何なのか?

Q. 現在の研究テーマについて教えて下さい

 私たちは毎日食べ物を食べて生きています。「栄養」を獲得して健康的に生き続けるためです。しかし何気なく食べているつもりでも、我々の体では「食べる」ことに端を発して様々な出来事が起こっています。私はこの出来事の仕組みを調べる研究をしています。

 例えばエネルギー源となる栄養素、炭水化物や脂質を食べると、消化吸収される過程で消化管や膵臓が、ホルモンや神経系のシグナルを送ったり、吸収された栄養素そのものがシグナルになったり、長期的には余ったエネルギーを蓄えた脂肪組織がやはりホルモンを放出したりして様々な情報が脳、特に視床下部といわれる領域に集まり、もっと食べるべきか、もう食べるのをやめるべきかが判断されています。この他にも肝臓が栄養素バランスの調整役として八面六臂の働きをして、その他の臓器・器官もみんなで協調して、本来我々は丁度いい体組成、つまり健康な体を自然に維持できるはずなのです。しかし、実際は食生活やその他の生活環境、遺伝的要因によって食べ過ぎてしまったり、逆に食べな過ぎてしまったりして、肥満や拒食、生活習慣病に悩む人がたくさんいるのは皆さんご存知と思います。こうしたことを解決する成分を探して、さらにその仕組みを明らかにしたいと考え、食物繊維、大豆イソフラボンの抗肥満、抗高脂血症効果を中心に研究しています。

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 食物繊維や大豆イソフラボンは食品に入っていますが栄養素ではありません。しかしこれらは広範囲な植物性食品や、大豆という我々にとってなじみの深い食品に比較的多量に含まれ、昔から私達が食べてきた成分です。私の教育分野は「栄養」科学教育分野ですが、こうした「非栄養素」の栄養学的研究や、魚肉タンパク質を食べると他のタンパク質に比べて筋肉が増加するという現象のような栄養素の従来の「栄養」から離れた新しい機能に関する研究が興味の中心になっています。

 面白そうでしょ?他にもたくさん面白いテーマがありますが、それは来てのお楽しみ。

Q. 農学部で教育研究するきっかけ/やりがいは?

 きっかけは。。。あんまり昔で忘れちゃいました。当時夢多き若者で、あれもしたい、これもしたいと思ってて、建築家とか、バイオ関係、航空技術者、ロボット工学なんかも候補でした。農学的なことだと、施設園芸(今でいう植物工場?)みたいなことがしたいと思って候補にしたような。。。今従事してる栄養学とはあまり関係ないですね。でも余談ですが今は植物工場の皆さんとも共同研究をしたりもしてて、何かご縁はありますね。

 思えば栄養学との出会いが、農学部で教育研究するきっかけだったかもしれません。農学部の2年生か3年生のころ、夢多き若者にありがちな「こんなはずでは」的な失望感に襲われていたある日、コンパで栄養学の先生の隣になっちゃって、会話に困って「何を食べたら健康にいいんですか」ととっさにたずねました。今思うとアホな質問ですね。でも先生は笑顔で「好きなもの食べればいいんだよ。そういう風にできてるもんなんです。」と、思いがけない答えをくれて、これはいったいどういう意味なんだろうと考えているうちに栄養学に夢中になって今に至ってます。やりがいはなんでしょう?いまだに「なんでだろう」って思って暮らせることかしら。

Q. 研究の将来の目標は?

 結構行き当たりばったりなのであんまり将来の目標とかはないタイプなんですが、敢えて言うと、今研究している課題について一つでいいから答えを出して、できるだけ多くの人にその面白さを共感してもらうことでしょうか?研究のゴールは果てしなく遠くて、もううん十年続けて答えの出ないテーマもあったりします。これは例えると十人二十人以上の学生達と駅伝してる感じで、区間ゴールである卒論・修論・博論の度に大感動なんですが、やはりいつかは最終ゴールにたどり着いてみたいですね。勝利監督インタビューみたいな?

受験生の皆さんへのメッセージ

 率直に言って単に大学を卒業することの価値は年々下がっています。受験勉強で大変な皆さんにはちょっと酷ですが、大学に入学できて終わりではありません。今はそこでどんな風に過ごして、どんな人になったかが本質的に問われる時代です。人を磨く方法は他にもいろいろあるでしょうが、何かの研究に没頭して過ごした人は、その分野ではもちろん、全く違う分野から見ても魅力的な人材です。一生懸命探して、自分が納得できる研究に巡り合って、思う存分没頭してください。決して楽ではありませんが、間違いなく楽しい磨き方です。

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