愛媛大学農学部・大学院農学研究科

農環境・生態系の保全と食の安全に係る包括的 有害物質監視・リスク評価研究グループ(代表者:高橋 真)

研究グループの活動目的

 健全な農環境の保全は、生産物である食糧の安定供給と安全性を保障する基盤であるとともに、その周辺生態系における生物多様性や生態系サービスの維持とも密接に関係している。一方、現代農業においては、多種多様な農薬や化学物質の利用が拡大しており、農地・生産物への残留や周辺生態系への流出・悪影響等が懸念されている。また、循環型社会の推進において、農畜産業で発生する有機性廃棄物の利活用が検討・注目されているが、それら循環資源の利活用においても含有有害物質の監視・管理が求められている。そこで本研究グループでは、先端機器分析による有害物質の一斉・迅速・形態分析法と分子生物学的手法等を用いた生態毒性検知や現地生物群集解析による生態影響評価の手法を組み合わせ、農環境および周辺生態系の保全と食の安全に係る包括的な有害物質監視・リスク評価に関する研究を実施する。

研究グループの活動実績の概要

1)農薬・環境汚染物質等の一斉分析法の開発と環境モニタリング
生物・食品試料中の残留農薬約200成分の一斉・迅速分析法および環境汚染物質約1000種のスクリーニング分析法を確立した。松山平野の農環境を対象としたモニタリングを実施し、水中残留農薬の発生源や動態、水棲生物に対する生態リスク等に関する包括的な知見を得た。

2)水田土壌における生元素・有害元素の化学状態・動態解析
Spring-8等の放射光施設で実施可能なマイクロXRF-XAFS法を応用し、土壌の酸化還元境界等における元素分布・形態の高解像度イメージを取得・解析できる新規測定法を開発した。水田酸化還元境界の局所的な元素分布や化学状態を解析し、農環境における元素挙動について新たな知見を得た。

3)生物・分子生物学的手法を用いた内分泌かく乱物質等の生態毒性評価
各種農薬や内分泌かく乱物質の生態毒性を評価するための魚卵(胚)を用いた試験法、細胞内関連受容体を介した遺伝子転写活性に基づくスクリーニング法を開発した。家畜由来のエクインエストロゲン類やネオニコチノイド系農薬等についてその毒性学的なポテンシャルや作用機序を明らかにした。

今後の活動計画概要

 今後の本研究グループの活動は、1)構築された有害物質監視・リスク評価システムのさらなる高度化、2)生態系保全と生産物の安全管理に係る研究活動の拡大とモデル研究の実施、3)産官学民連携の実践的プラットフォームの拡充、の3つの方針を中心に進めていく。具体的には、各種有害物質の一斉・迅速分析や網羅的スクリーニング、バイオアッセイ等を統合した環境・生産物・循環資源の包括的安全性評価手法を確立するとともに、有害物質の毒性同定評価に基づく農薬利用、排水・廃棄物等処理対策の適性評価に資する研究を展開する。また、実際の農環境のモデル地域を選定し、各環境媒体における詳細な物質動態の解明や生態系保全と生産物の安全管理の両立を目的とした調査・研究を推進する。とくに農地や周辺生態系における農薬等化学物質の利用実態調査、生物多様性に関する生態調査を継続しながら、上記で確立した物質測定法や毒性検知法を活用して、モデル地域における有害物質の生態影響を包括的に解析・評価する。モデル研究で得られた手法やシステムの社会実装を検討し、産官学民の連携や将来の研究教育基盤の強化につながる実践的プラットフォームの構築を図る。以上の活動を通して、生態系の保全と生産物の安全性を保障する循環型農環境モデルの形成推進に貢献する。

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