愛媛大学農学部・大学院農学研究科

大学院農学研究科の石橋弘志准教授らの論文が学術雑誌Science of the Total Environmentにオンライン掲載されました

愛媛大学大学院農学研究科の石橋弘志准教授・水川葉月准教授、有明工業高等専門学校、東海大学、熊本大学の研究グループは、非標的生物への悪影響が懸念されているフェニルピラゾール系殺虫剤フィプロニルとその代謝分解物について、有明海の流入河川および河口域における汚染実態を明らかにし、さらに汽水産甲殻類アミに対する毒性評価を行った研究成果を発表しました。

フェニルピラゾール系殺虫剤のフィプロニルは、ハチ類などの陸域節足動物に対して強い毒性を示すため、EU(ヨーロッパ連合)などでは使用が禁止されています。しかし日本では使用が継続しており、非標的生物への影響が懸念されています。フィプロニルなどの殺虫剤は様々な用途で使用され、河川・湖沼を通じて海域に拡散することが予想されるため、水生生物に対する毒性影響を明らかにする必要があります。また、フィプロニルは酸化・還元などの反応により、フィプロニルスルホンやフィプロニルスルフィドなどの代謝分解物を生成することが知られています(図1)。しかし、これらの物質の河口域(汽水域)などの水環境における存在実態や水生生物に対する毒性影響は不明でした。

画像1.png

1.フィプロニル(親化合物)とその代謝分解物の構造式

今回の研究では、有明海の流入河川および河口域の8地点を調査対象として、フィプロニルとその代謝分解物5物質の濃度を液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計(LC-MS/MS)で定性・定量しました。その結果、代謝分解物1物質を除き、フィプロニルと代謝分解物4物質がほとんどの試料で検出され、河川の合計濃度(6月:21.2 ng/L7月:14.1 ng/L9月:9.95 ng/L)は河口の合計濃度(6月:10.3 ng/L7月:8.67 ng/L9月:6.71 ng/L)よりも約2倍の高値を示しました。また、フィプロニル、フィプロニルスルホンおよびフィプロニルスルフィド濃度は5物質の合計濃度の70%以上を占めていました。

そこで、これら3物質について、米国環境保護庁(USEPA)で毒性試験への適用が推奨されているアミ(Americamysis bahia)(図2)を用いて、14日間のばく露試験により成長・成熟・脱皮に及ぼす影響を調査しました。3物質は、それぞれ異なる濃度でアミの成長(体長・頭胸甲長・体重)や脱皮に影響し、最小作用濃度は、フィプロニル=140.3 ng/L、フィプロニルスルホン=10.9 ng/L、フィプロニルスルフィド=19.2 ng/Lと算出されました。このことからフィプロニル代謝分解物のアミに対する毒性(成長・脱皮への影響)は、親化合物のフィプロニルと比べて約10倍程度高いことが示唆されました。

画像2.png2.本研究で使用したアミ(Americamysis bahia).体長は510 mm程度 

今回の研究では、日本の河口域におけるフィプロニルおよびその代謝分解物の汚染実態を初めて明らかにしました。また、これらの物質の一部は、実環境中で検出された濃度よりも少し高い濃度のばく露によって、アミの脱皮に影響し、それに伴い成長を阻害することが明らかとなりました。本研究成果は、農薬の親化合物だけでなく、代謝分解物も考慮した生態リスク評価の基礎情報となることが期待されます。

本研究成果は、202362日に国際学術誌Science of the Total Environment2022 Journal Impact Factor = 9.8)にオンライン掲載されました。本研究およびその一部はJSPS科研費21K05878、農学研究科研究グループARGの助成を受けました。

【論文情報】
掲載誌:Science of the Total Environment
題名:Adverse effects of contamination by fipronil and its derivatives on growth, molting, and gene expression in the mysid crustacean, Americamysis bahia, in Japanese estuaries.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2023.164595
著者:Masaya Uchida*, Hazuki Mizukawa*, Masashi Hirano, Nobuaki Tominaga, Koji Arizono, Hiroshi Ishibashi**
*These authors contributed equally to this work.
**Corresponding author