愛媛大学農学部・大学院農学研究科

サトイモ疫病菌の全ゲノム配列解読に成功

 愛媛大学大学院農学研究科の八丈野孝准教授と理化学研究所、愛媛県農林水産研究所の研究グループは、世界各地で深刻な問題となっているサトイモ(タロイモ)に疫病を引き起こすサトイモ疫病菌(Phytophthora colocasiae)の全ゲノム配列を高精度に解読したという研究結果を発表しました。

 サトイモ(Colocasia esculenta; 別名タロイモ)はアジア、アフリカ、太平洋地域やカリブ海地域で主要な作物として栽培されています。しかしながら、これらの地域ではサトイモ疫病の被害が拡大しており、効果的な防除法が見つからないまま深刻な問題となっています。原因菌はPhytophthora colocasiaeという、かつてアイルランドで大飢饉を引き起こしたジャガイモ疫病菌(P. infestans)と同属の植物病原糸状菌です。2015年に我が国の主要産地である愛媛県、宮崎県及び鹿児島県で同時にサトイモ疫病の発生が確認され、その後、千葉県、埼玉県、福井県へと急速に感染拡大しておりその勢いを止めることができていません。2017年に新たに農薬が登録されましたが、葉の撥水力のため頻繁に散布する必要があり、大型作物ゆえに労力やコストがかかるという課題に加え、ジャガイモ疫病菌と同様にサトイモ疫病菌でも薬剤耐性菌の出現が懸念されています。持続可能な農業を実現するためには早期に対策を講じる必要があります。
 今回の研究では、愛媛県内で分離されたサトイモ疫病菌のゲノムDNAを高出力のロングリードシーケンサーで解析し、推定ゲノムサイズ約143 Mbp(1億4300万塩基対)の全ゲノム配列情報を得ることに成功しました。この配列情報は非常に高精度であるため、世界各地で発生するサトイモ疫病菌の遺伝子解析のための参照ゲノム配列となります。今後、比較ゲノム解析による拡散経路の解析、薬剤耐性を生み出す遺伝子領域の特定、さらには発病メカニズムの解明につながると期待されます。
 本研究成果は、国際学術誌Molecular Plant-Microbe Interactionsにオンライン掲載されました。

【論文情報】
掲載誌:Molecular Plant-Microbe Interactions
題名:High-quality genome sequence resource of the taro pathogen Phytophthora colocasiae
DOI:10.1094/MPMI-05-21-0120-A
著者:Sachiko Masuda1, Takashi Yaeno2*, Hideaki Shibata3, Shuuhei Yorozu3, Satoki Yamamoto3, and Ken Shirasu1*
*Corresponding authors: Takashi Yaeno, Ken Shirasu