愛媛大学農学部・大学院農学研究科

大学院農学研究科2年生の福原将太さんの論文が国際学術誌「Biochemistry」にオンライン掲載されました【12月23日(金)】

 大学院農学研究科2年生(生命機能学専攻 応用生命化学コース 生化学教育分野所属)の福原将太 さん、同研究科の渡辺誠也教授(沿岸環境科学研究センター教授 兼任)、西脇寿教授、山形大学理学部の渡邊康紀講師の研究グループは、細菌のL-ラムノース代謝経路に関わるL-2,4-ジケト-3-デオキシラムノン酸ハイドロラーゼ(LRA6)の立体構造をX線結晶回折法により初めて明らかにしました。
 LRA6は、細菌のリン酸化を必要としないL-ラムノースの代謝経路の最後のステップに位置しており、L-2,4-ジケト-3-デオキシラムノン酸をピルビン酸とL-乳酸に変換する水和反応を触媒します(図1A)。渡辺教授により2009年に初めて発見され(Watanabe et al., FEBS J. 2009, 276, 1554-1567)、その後の研究でL-ラムノース以外の多くの単糖の代謝にも関わっていることが分かってきました(Watanabe et al., Sci. Rep. 2019, 9,155)。LRA6はフマリルアセト酢酸ハイドロラーゼ(FAH)タンパク質ファミリーに属していますが、他のメンバーとの間のアミノ酸配列の相同性は30%程度と低く、5位に水酸基を持つヒドロキシアシルピルビン酸を基質とするのが特徴です。

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図1 (A)LRA6の触媒する反応(B)LRA6の結晶(C)LRA6のサブユニットの構造(D)フマリルピルビン酸の構造

 これらの分子基盤を立体構造の面から明らかにするため、海洋性細菌の一種が持つLRA6を大腸菌で発現させ、精製した酵素を結晶化し大型放射光施設スプリング8のビームラインでX線回折データを収集しました(図1B)。最終的に、酵素のみのアポ構造とピルビン酸との複合体であるホロ構造を、それぞれ1.7 Åという高分解能で決定しました(図1C)。アポ構造のLRA6の活性部位には3つの酸性アミノ酸残基(Glu171・Asp150・Glu171)と水分子が配位したマグネシウムイオンが結合しており、ホロ構造ではこの水分子が結合したピルビン酸の酸素原子に置き換わっていました。ピルビン酸の結合は、活性部位の入り口に位置する蓋の部分を約24oを閉める構造変化を誘導していました。分子系統解析の結果、LRA6はフマリルピルビン酸ハイドロラーゼ(FPH)と近いことが分かりましたが、FPHがフマリルピルビン酸のカルボキシル基を認識するアルギニン残基がLRA6ではロイシンになっており、これは6位のメチル基を持つ基質に対して高い活性を示すという基質特異性をよく説明できました(図1D)。また予想外なことに、LRA6は5位に水酸基を持たないアシルピルビン酸にも高い活性を示しましたが、これは5位の水酸基を特異的に認識する残基を持たないという構造的知見と一致しました。本研究は、FAH タンパク質ファミリーの酵素機能に新たな知見を与えることが期待されます。
 本研究成果は、令和4年12月23日に生化学分野の国際学術誌「Biochemistry」にオンライン掲載されました。本研究成果の一部は、農学研究科研究グループ(ARG)、愛媛大学研究業績数改善促進費の助成を受けました。

【福原将太さん(筆頭著者)からのコメント】
この度は、自分自身の研究が論文という形で世の中に発信されることを大変嬉しく思います。親しみのない他分野の実験であったり、明らかにされてきた多くのことを踏まえた考察であったりと、初めてでうまくいかないことも多々ありましたが、複数の教員の方々のサポートを受けながら、地道に一つずつ取り組んできたことがこのような形で身を結び、やってきてよかったと強く感じます。これまでの研究活動やそれに対する向き合い方などを、卒業してからも活かしていけるよう頑張りたいです。

【渡辺教授(共筆頭著者・責任著者)からのコメント】
立体構造解析だけでなく多くの生化学実験も組み合わせることで、酵素の構造と機能の相関を有意義に議論できました。修了までに掲載が間に合い嬉しく思います。

【論文情報】
掲載誌:Biochemistry
題名:Crystal structure of L-2,4-diketo-3-deoxyrhamnonate hydrolase involved in the non-phosphorylated L-rhamnose pathway from bacteria.
DOI:doi.org/10.1021/acs.biochem.2c00596
著者:Shota Fukuhara‡1, Seiya Watanabe‡§1*, Yasunori Watanabe, Hisashi Nishiwaki
Department of Bioscience, Graduate School of Agriculture, Ehime University, 3-5-7 Tarumi, Matsuyama, Ehime 790-8566, Japan
§ Center for Marine Environmental Studies (CMES), Ehime University, 2-5 Bunkyo-cho, Matsuyama, Ehime 790-8577, Japan
Faculty of Science, Yamagata University, 1-4-12 Kojirakawa-machi, Yamagata, Yamagata 990-8560, Japan
1 These authors contributed equally to this work.
* Corresponding author